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【しまログ#10】受け継がれる舞、未来へ向かう想い

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はじめまして。西ノ島の魅力を発信する「しまログ」です。
西ノ島のことを知っている人にも、これから知る人にも、
「西ノ島の数えきれないほどの魅力を伝えたい」という想いから発足しました。

「神楽のこと本当に心から好きなんですよね」と笑顔で語る小櫻さん。本気で楽しんでいる気持ちとともに、隠岐島前神楽を語るその目には未来につないでいく覚悟や力強さが映っているようでした。師匠から教わった伝統を守り、次の世代へ届けることに情熱を注いでいます。
今回は、西ノ島出身であり隠岐島前神楽の第一線で活躍されている小櫻さんに、尊敬する師匠との思い出、子どもたちとの関わり、これからの自らの目標などたくさんの”想い”を伺うことができました。

目次

  1. 島前神楽について
  2. プロフィール
  3. 神楽は「やりたいことでもあり、やらなきゃいけないこと」
  4. 最後に
  5. あとがき

島前神楽について

島根といえば神楽ですが、石見神楽や出雲神楽とは別に隠岐の神楽はより神事の側面を色濃く残した特徴があり、島前と島後でもまた特徴が異なっています。島根といえば、出雲大社をはじめとする神社巡りですが、諸島の中に大小50社以上の神社がある隠岐、そんな隠岐の特徴的な神楽、島前神楽に携わる小櫻さんに今回お話を伺いました。インタビューを通して皆さんにも隠された隠岐の魅力「島前神楽」に触れていただき、ぜひ隠岐の旅の目的の一つにしてもらえればうれしいです。

プロフィール

小櫻錬(こざくら れん)さん
島根県隠岐郡西ノ島町の出身で、現在24歳。3歳から隠岐島前神楽の虜になり、島前神楽歴は22年目。
高校卒業後は島を離れ大阪へ。一度は島前神楽から離れることになったものの、2024年からインスタグラムの活動も精力的に行い、島前神楽の魅力を発信しています。また、西ノ島の祭りや小中学校での授業も行ったり、海外での公演をしたりと活躍の場は様々。自らを”神楽オタク”と称すほど島前神楽を愛し、情熱を注いでいます。また、2025年10月29日(水)には初の自主企画「子ども神楽HEROES」を開催。大盛況のうちに幕を閉じました。

神楽は「やりたいことでもあり、やらなきゃいけないこと」

ーー隠岐島前神楽歴は22年目。3歳から始められたということですが、始めたきっかけはありましたか。
小櫻:3歳なので記憶にはあまりないんですが、、、(笑)西ノ島の神楽は海士町や知夫村とは違う文化で、お祭りのときに舞台で神楽を奉納するのが特徴だと思います。小さい頃に祭りで神楽を見て好きになって、家で神楽ごっこをしていたみたいです。そこから親に連れられる形で別府同好会、今の西ノ島同好会に参加するようになりました。

ーーそうだったんですね。神楽を始めたころの思い出とかはありますか。
小櫻:とにかく神楽が好きだったと思います。家でも、誕生日に買ってもらった太鼓を叩いて遊んでいて。遊び半分だけど好きでずっとやっていましたね。神楽メンバーも家族のような存在で昔から可愛がってもらっていました。小さい頃には誕生日ケーキを買ってくれたり、今では自分が企画をしたいときにサポートをしてくれたりと、形を変えてずっと可愛がってもらっていますね。

ーー子ども神楽HEROSでは、随神能(ずいじんのう)を披露されていましたが、演じる時に心がけていることなどはありますか。
小櫻:神楽はお祭りの時などに奉納する神事なので、神聖なものです。だからこそ役柄の神様になりきることを心がけています。また、舞台に立った時には堂々と誇りをもって舞うことも大切にしています。

「子ども神楽HEROS」で小櫻さんが演じた演目、随神能の大鬼

映像を何度も見て、師匠である石塚先生の舞にどれだけ近づけるかを細かく研究しています。”神楽保存”という面からもこのことは大切にしていますね。

ーー師匠と慕われる、石塚先生の尊敬するところはどんなところですか。
小櫻:まず、前知識として島前神楽は家柄で続いていたものでした。社家(しゃけ)と呼ばれる神楽を専門としている家が島前には5つありましたが、少しずつなくなっていき現存しているのは師匠の石塚家のみになります。社家の家柄ということもすごいですが、師匠のすごいところは数多くある演目の所作や知識が全て頭の中に入っていることです。

練習の様子。石塚師匠から子どもたちへの指導。

どんなに質問することが細かくなってしまっても、師匠は事細かく教えてくれます。その技術力と知識量は、常人では考えられないほど抜き出ているものだと思います。存在自体がすごいと思いますし、最も尊敬する人は誰かと問われたら必ず石塚師匠だと答えます。

イベント本番では、石塚師匠が司会進行をする場面も。

ーーいろんな舞台に立たれていると思いますが、尊敬する石塚師匠との関わりの中で印象に残っている舞台はありますか。
小櫻:印象に残る舞台か、、22年もやっているとたくさんありますね、、(笑)今は師匠もお年を召されて、舞台に立たれることは少なくなりましたが、自分が小学生の頃は第一線で活躍されていていました。その中でも太鼓を師匠が叩いて、自分が舞うときが印象深いですね。師匠が太鼓を叩くと自分の舞をリードしてくれるような安心感があって、引っ張ってくれているような気持ちになりました。自分の舞の癖なども全て理解してくれているので、師匠に太鼓でリードしてもらう安心感は大きかったです。

幼少期の小櫻さんと石塚師匠

今は一緒に舞台に立つことは少なくなりましたが、その時に育ててもらった感謝の気持ちを込めて舞うことを心がけています。先生にリードしてもらわなくても最後まで舞いきることを目指してきましたし、それをできるようになったことが自分の成長だとも思います。

ーー素敵な関係性ですね。また、インスタグラムでも精力的に活動しているのを目にしますが、このように発信しようと思ったきっかけはありますか。
小櫻:インスタグラム自体は2024年の7月に始めました。自分は高校3年生で島を離れ、生活のスタイルや仕事的にも当時は隠岐に頻繁に帰ることができなくなり神楽からも離れていました。去年の夏頃から隠岐に月に1回ほどは帰ってこられるようになって神楽も4年ぶりの復帰を果たしました。「自分がするから意味があることはなんだろう」と考えたときに、大阪ではイベントに参加したり、動画制作やデザインが得意だったりしたので、時代に合わせてSNSをやってみようと。若い人にも広めていくにはやっぱりインスタグラムかなと思いましたし、神楽同好会で発信するなら自分だと思いました。これは自分がやることで意味があると。成果も見えつつあり、いろんな方に見ていただけて今回のイベントにも足を運んでもらったと思います。
先日の”子ども神楽HEROES”は初の自主企画でした。自分が主体になって新しいことに挑戦していくことができるようになり、これまではできなかったことが、今できるようになってきていると実感します。師匠や会長からもお褒めの言葉をいただいています。若い自分の提案も受け入れてくれる上の方々の心の広さに感謝していますし、支えていただいていると感じます。子ども神楽の発表会はずっとやりたいという気持ちがありました。自分も通ってきた子ども神楽で子どもたちを活躍させてあげたいし、目標があったほうがさらに頑張れるかなと。新しい層にも興味をもってもらうきっかけにもなるし、このイベントの収益で子どもたちの衣装も買えたらいいですよねと提案して実現しました。

小櫻さん自身がマイクをもつ場面も。

ーー今回初舞台の子もいたということですが、子どもたちの反応はいかがでしたか。
小櫻:正直、子ども神楽のメンバーにとっても完璧な舞台になったと思います。巫女舞(みこまい)の子は初舞台でした。前日までやっぱり緊張もあり、舞の順番を忘れる場面があって周囲も少し心配していたんです。けれど当日は最後まで間違えることなく舞いきったんです。最後まで間違えずに舞うことだけでも難しいのに、所作も綺麗に舞ったことがとにかくすごかったです。初舞台であの完成度には驚きましたし、これからさらにパワーアップしてくれると思うので楽しみです。高い完成度で舞うことができて、お母さんも感動して泣いていたのがアツかったですね。

小櫻さんも大絶賛の巫女舞

神途舞(かんどまい)の子は何回か舞台には立っていました。上手に舞うこともできていましたし、今回よかったのは練習の時に本人や親御さんから質問をしてくれたことですね。進んで質問をしてくれて、神楽に対する向上心がさらに見られて嬉しかったです。
もう一人の先祓能(さきはらいのう)を披露した子は、昔から一緒に舞台に立っていて自分にとっては3人目の弟みたいな存在です。彼は情熱をもって練習に取り組んでいてとても成長が見られました。当日は本人の家族がたくさん来ていて、感極まって泣いていましたね。たくさんの人に愛されていると感じましたし、神楽で目の前の人を感動させているのがすごい。彼のもっているポテンシャルのすごさを感じました。

ーー子どもたちの舞には私も感動しましたし、いろいろな人が見守っているのも素敵な空間だなと思いました。
また、今回は兄弟共演を小櫻さんから希望されたということでしたが、何か理由があったんでしょうか。

小櫻さん(左)と弟さん(右)による随神能

小櫻:本当にたまたまなんですけど、このイベントと弟の帰省のタイミングが被って(笑)
実は自分たちが小学生の頃、兄弟で随神能をやる企画はあったんです。祖父が大工だったので小道具を作ってくれたり、師匠たちが教えてくれたりして軌道にも乗ってたんですけど、、、。僕たち、当時仲が悪かったんですよね(苦笑)よくある兄弟げんかをよくしていて、随神能はコンビで息を合わせてやるものだから上手くいかず、結局実現しなかった。そしてお互いに島を離れてしまったんです。今回、弟の帰省のタイミングも被るし、子ども神楽ではないけれども子ども神楽OBとして二人でやらせてほしいと提案しました。練習は難しかったですね。自分が神様の役を習得して、弟に教えるという形で二人で大阪でスタジオを借りて練習していました。隠岐に戻ってきてからは先生に細かい部分まで見てもらってアドバイスをもらいました。当日の朝も6:00くらいから練習して、とにかく詰めるとこまで詰めて1番かっこいい随神能をやろうと。

練習の様子

実際、自分が過去にやってきた随神能の中でも1番の出来だったと思います。弟も上手でしたし、初舞台であのクオリティと完成度はよくやってくれたと思います。

昔から僕たちを知っている方たちが、始まる前から楽しみにしてくださってて。泣いてる方とかもいて嬉しかったですね。感想のメールもたくさん届いて、反響の大きさを実感しています。小学校時代の先生とか昔から知ってくださっている方たちからの言葉が多くて、ありがたいです。

当日の様子。会場が埋まるほどの大盛況でした。

ーー今は子どもたちに教える立場だと思いますが、意識して伝えていることはありますか。また、これから年下の子たちにどうなってほしいですか。
小櫻:意識しているのは、難しいことは言わずとにかく神楽を楽しんでもらうことです。やっぱり一番上達するのは”楽しくて好き”という気持ちだと思うので、それを大切にしていますし、神楽を好きになってもらえる教え方を心がけています。彼らが情熱をもって好きでやってくれているのがありがたいですね。あとは、舞台に立つと緊張して恥じらいをもつ子もいるんですけど、堂々と舞うためのアドバイスや気持ちのもちかたを伝えています。
今後は、それぞれ進路によって島を出ることもあると思うけれど、やり方は変わっても好きで続けてくれたら嬉しいですね。今、神楽を好きでやっている子たちが、形や生活スタイルが変わっても好きで続けて、一緒にお酒が飲める年齢になったときに仲間として第一線で活躍してくれていたらアツいですね。またさらに下の代に教えている光景を見られたら嬉しいです。

ーーこれから神楽を通じて挑戦したいことや、目標はありますか
小櫻:島前神楽のすごいところは、かたちを変えずに古いままの伝統を残していること。時代に合わせて新しくしていくことも伝統という考え方もあるけれど、昔の姿のまま残しているのがすごいと感じています。これができたのは、各時代に情熱をもっている人がいたから実現できたことだと思います。
自分が活動をするときにテーマにおいているのが”自分がやるから意味があること”。神楽保存という意味でも師匠である石塚先生の舞を研究していくことや、他の人がやっていないこととしてSNSを使った新しいかたちの神楽普及活動は、”自分がやるから意味があること”につながるのではないかと考えています。
現代で神楽に対して情熱をもっている人物の一人として石塚師匠がいると思うし、自分も社家である師匠の舞を今後の時代にもつなげたいです。舞い手によってそれぞれの味や色がでるのが面白さであり、魅力でもあります。それと同時に、かたちを変えずに残しておくときに本家である社家の舞を残す人たちがいなくてはとも感じます。だからこそ自分も師匠の細かいところまで研究して、下の子たちに教えていきたいです。

ーー最後に、ベタな質問になりますが、”小櫻さんにとって神楽とは”なんですか
小櫻:プロフェッショナルの流儀みたいなやつですよね(笑)
この質問をもらって毎回答えるのは、「神楽はやりたいことであり、やらないといけないこと」
ありがたいことに好きで始めて、心から好きで今まで続けているんですよね。一方で、22年もやっているとお世話になった方も亡くなっていくんです。この人の分まで頑張らないとなって思うし、世代交代していく中で自分がやらないとっていう使命感があります。責任をもって下の子たちに伝えていきたい。神楽メンバーは自分にとって家族同様なので、感謝の気持ちをもって頑張っていきたいです。「やりたいことでもあり、やらなきゃいけないこと」今のところはそういう気持ちです。

 

小櫻さんはインスタグラムでも練習風景や、イベント情報、活動の様子などを発信しています!「子ども神楽HEROES」の様子も動画で配信しているので、ぜひチェックしてみてください☆
小櫻さん インスタグラム新しいタブで開きます

また、今後の神楽の公演や奉納は今のところ未定だそうですが、春ごろには島前神楽を見られる機会があるそうです。迫力ある島前神楽が見られるのが、楽しみですね!

最後に

小櫻さんの神楽への熱い想いは、島の方にはもちろん、島を訪れる方にも温かく届くことでしょう。私も西ノ島に来て初めて島前神楽のことを知りお祭り等で目にする機会がありましたが、何度見ても息を吞むような迫力があります。みなさんも西ノ島のお祭りに足を運ぶ機会があれば、ぜひ隠岐島前神楽の音や空気を感じてみてください。西ノ島の変わらぬ伝統が、目に耳にそして心に焼き付くはずです。

今回のインタビューの様子は、西ノ島町観光協会のインスタグラムでも投稿しています。ぜひチェックしてください!
西ノ島町観光協会 インスタグラム新しいタブで開きます

あとがき

今回、他の取材など忙しい中インタビューを快く受けてくださった小櫻さん。初めてお話を聞く中で島前神楽への情熱ももちろんですが、小さいころから可愛がってもらっているという神楽メンバーへの感謝、そして子ども神楽の子たちへの想いなど人柄がとてもよく伝わりました。印象に残ったのが”とにかく神楽が好き”ということ。「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、その言葉を体現されている方だと感じました。子ども神楽で頑張っている子たちにも”好き”という想いが伝わり、広がっているのでしょう。「子ども神楽HEROES」を実際に拝見させていただきましたが、子どもたちの堂々と舞台に立つ姿に胸打たれましたし、多くのお客さんに応援されていると感じました。これからも小櫻さんの熱い想いがたくさんの方に届くといいなと思います。小櫻さん、ご協力ありがとうございました。