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コラム

絶景を見るだけでは出会えない、知夫里島。「Chez SAWA」で過ごす”余白”の時間

  • エリア

    • 知夫村
  • 季節

    • 春
    • 夏
    • 秋
    • 冬

本土からフェリーで2時間半。人口およそ600人の小さな島・知夫里島(ちぶりじま)には、この一軒を目的に海を渡る人が絶えないオーベルジュがある。
時には2か月先まで予約が埋まるフレンチレストラン「Chez SAWA(シェサワ)」だ。

ここで触れるのは、「絶景を楽しむ」以外の、知夫里島へ旅する価値。

ただ流れる時間に身を置き、出会った人と言葉を交わし、感情ひとつひとつに丁寧に向き合う。
Iターンで移り住んだオーナーの紗和(さわ)さんが見つけたのも、そんな島の”余白”と、人の温かさだった。

五感で楽しむコース料理を味わいながら伺ったお店に込めたこだわりや想いと共に、知夫里島の隠された”豊かさ”をたどる。

目次

  1. 路地の先に佇む、古民家レストラン
  2. 一皿ごとに記憶に残るコース料理
  3. 地産地消だけに囚われない―食材との向き合い方
  4. 「紗和ちゃん家」に招かれるような温もり
  5. 暮らしと交わるステイ―「余白」を味わう
  6. 暮らしの先にある、知夫の未来
  7. 大切な人と、忘れられないひとときを
  8. Chez SAWA基本情報

路地の先に佇む、古民家レストラン

仁夫里浜公園を過ぎ、民家の間の細い路地を上った先に、一軒の古民家が静かに佇んでいる。
ここが、知る人ぞ知る隠れ家フレンチレストラン「Chez SAWA」だ。

戸を開けると、オーナーの岡田紗和(おかだ さわ)さんが笑顔で出迎えてくれた。

chez sawaのオーナー 岡田紗和さん

木目と黒を基調とした店内を暖色の光が包み、ところどころでロウソクの火が揺れている。こぢんまりとしているが、細部まで心配りを感じる洗練された空間だ。

暖色の光とロウソクに包まれたchez sawaの店内

一皿ごとに記憶に残るコース料理

テーブルに運ばれる料理は、フレンチ特有の重たさが驚くほどなく、素材の輪郭がすっきりと際立っている。

まず運ばれてきたのは、色鮮やかな人参のポタージュとお店で焼き上げる自家製パン。

外はサクサク、中はふんわりと焼き上がったパンには、大粒の塩と上質なオリーブオイルがよく合い、思わず手が止まらなくなる。

人参のポタージュは、舌の上ですっと溶けてなくなるような滑らかさ。

人参特有の青さや苦味はほとんどなく、自然な甘みがやさしく広がる。そこへクミンの香りがふわりと鼻腔をくすぐる。素朴に見えて、細やかに計算された香りのアクセントに引き込まれた。

続いて、Chez SAWAの定番メニューであるサザエの香味焼きと、野菜のタブレ(フランスの定番サラダ)。

運ばれた瞬間、皿の華やかさに目を奪われる。花びらのように広げられたズッキーニの中には、冷製のラタトゥイユとクスクス。バジル、ナッツ、ガーリックなどをベースにした濃厚な緑のソースを纏ったサザエの身と一緒に食べると、もう絶品。クスクスの粒立ち、サザエの力強い歯ごたえ、添え野菜の小気味よい食感が重なり、目、食感、味と三度楽しめる一皿だった。

次は、薄く切って軽く炙った白烏賊をのせた冷製カッペリーニ。

オリーブオイルと塩を基調としたシンプルな味付けが、イカの濃密な甘みを引き立てる。麺に絡む大葉の爽やかな風味と、上に乗った島で採れた野草のシャキシャキとした歯ごたえが、つるりとした細麺とコリコリのイカに軽快なリズムを加えていた。

魚介のパイ包みは、運ばれた瞬間からバターの香りが立ちのぼる。

さっくりと香ばしいパイ生地をナイフで割ると、内側にはモチモチとした温かい生地と、タコやアオリイカ、キノコの楽しい食感。白ワインと西洋ヨモギで仕立てたソースの酸味に、鮮やかなシソのオイルが重なり、パイのほのかな甘みと絶妙なバランスを描く。

メインは、フォアグラを採るために飼育された「マグレ鴨」のロティ。

濃厚な旨味をたたえた鴨肉に、オレンジのソースが甘みと爽やかな酸味を添え、脂のコクを和らげる。蕎麦粉や香辛料、ビールを使った舞茸のベニエは、驚くほど軽やかでサクサク。大きく切られた茄子は素材の甘みがあふれ出しており、添えられた野菜の香ばしさや甘味が鴨の濃厚な旨味を引き立てていた。

締めくくりは、ベリーAという種類の葡萄の甘酸っぱいジュレに、竹炭と「福木(ふくぎ)」を使った黒いジェラートを合わせたデセール。

福木の清涼感を帯びた和の香りが鼻を抜け、ジェラートのミルキーなコク、ベリーAの鮮烈な酸味と重なり合う。

爽やかで奥深い、これまでに味わったことのない余韻。

食後のコーヒーをいただく頃には、一つの物語を旅したような充足感に包まれていた。

地産地消だけに囚われない―食材との向き合い方

これらのコース料理を組み立てるうえで、何を大切にしているのだろうか。オーナーの紗和さんにお話を伺った。

地方のレストランで、しばしば掲げられる「地産地消」。しかし、Chez SAWAの姿勢はより柔軟だ。紗和さんとシェフが共有しているのは、知夫のものだけに縛られず、「今日ある中で最高の食材を届ける」という考え方である。

離島という立地で知夫の食材だけに限定すれば、料理にはどうしても制約が生まれる。そのため、その日に手に入る最もおいしい食材で最高の一皿を提供したいという思いから、島の食材にとらわれず、つながりのある本土からも肉や魚を仕入れる。それらを、シェフが確かな一皿へと仕立てていく。

一方で、知夫里島だからこその面白さもある。単に地元産を並べるのではなく、顔の見える関係の中で料理をつくれることだ。

「魚もそうですけど、やっぱほんまに鮮度がいい状態というか、一番状態が良い時に入ってくるから。シェフもそうだと思うけど、持ってきてくれる人の顔が見えたり、生産者さんと近いことが。『これどうしたらええかな』とかを話しながら料理できるのも楽しいんです」

その日に獲れた魚や採れた野菜を抱えてやって来る島の人たちと、対話を重ねながらコースを組み立てる。産地という枠にとらわれず、目の前の素材を最もおいしい形で届けることが、Chez SAWAの料理を支えている。

「紗和ちゃん家」に招かれるような温もり

洗練された料理の数々を提供しながら、店内には温かな空気が流れている。

店名にあるフランス語の「chez(シェ)」は、「〜の家」を意味する。この名を選んだ理由を、紗和さんは微笑みながら振り返った。

「最初知夫でするってなった時に、フレンチでカタカナの店名だと近寄りがたいとかが嫌やったんで。『紗和ちゃん家』みたいな感じで来てくれたらいいなって」

その飾らない美意識は、空間づくりにも表れている。

建物は、もともと島にあった古民家。大がかりな改装はほとんど施していないという。

「インテリアは、元々ここにあったものは使って、ないのは取り入れて、みたいな。古民家を生かしつつ、極力料理を邪魔しないようにしています。ほとんどシェフのセンスですね(笑)」

華美な装飾を加えず、島の素朴な風情を残した空間だからこそ、ロウソクの灯りが静かに心に染みる。
堅苦しいレストランの接客ではなく、そこには家を訪れた友人をもてなすような、人肌の温もりがあった。

暮らしと交わるステイ―「余白」を味わう

Chez SAWAでは、料理の余韻を抱いたまま、その場所に泊まることができる。

客室に置かれているのは、本当に必要なものだけ。装飾を抑えた室内は、シンプルでありながら洗練されている。

高い天井が開放感を生み、晴れた日には窓から柔らかな光が差し込むという。日常から離れ、静かに休むための空間だ。

なぜ、レストランに加えて宿を始めたのか。その背景には、外から知夫里島へ移り住んだ紗和さんだからこそ感じ取れる、旅人の思いがある。

ゲストの中には東京や大阪などの大都市から島を目指す人もいれば、香港から繰り返し訪れる人もいる。Chez SAWAに訪れるゲストの過ごし方は、一般的な観光地巡りとは少し異なる。

「やっぱりみんな『余白』を求めてるのかな、と。連泊する人とか、『何するんですか?』って聞いても、もう何もしないって。『島でゆっくり過ごしたかったんや』って」

都会の喧騒や日々の忙しさから離れ、何もしない時間を過ごす。知夫里島には、予定に追われず、出会った人と語り、自分を振り返る時間がある。刺激の少ない静かな環境に身を置くことで、旅人は自分自身の輪郭を取り戻して帰っていく。

「元々私らは、お客さんが知夫にできるだけ長い時間滞在できたらいいねと思って、宿を作ったんです。ランチやディナーとしての通過点だけじゃなくて、ゆっくりと滞在できる場所。知夫里島が目的地として目指してもらえる場所になったら嬉しいです。」

赤ハゲ山や赤壁などの絶景は、もちろん見応えがある。

しかし、それだけを見て帰るのは、あまりにもったいない。島の暮らしと交わり、人の体温に触れる濃密な時間が、「また戻ってきたい」という思いを育て、知夫里島のファンを増やしている。

暮らしの先にある、知夫の未来

昨今「地域創生」や「地方再生」という言葉が飛び交う中で、紗和さんの視線は驚くほど自然体で、等身大だった。

以前知夫里島で奉納太鼓のイベントが開かれた際には、シェフをはじめとするChez SAWAのスタッフの方々が運営を手伝っていた。店の中だけにとどまらず、知夫の未来に積極的に関わる姿を見て、息子さんが生まれてから何か考え方に変化があったのかを尋ねた。

「息子が生まれたから知夫を私たちが変えるぞ!とか、良くするぞみたいなそんな思いはあんまりなくて。やっていることが自然と知夫に影響があったり、自分たちも楽しみながら、っていうのがベースなので、何かのために!みたいのはあんまりないですね、正直。」

大義名分を背負うのではなく、自分たち家族が日々の暮らしを楽しむ。その自然体の営みが、結果として島の内外をつなぎ、知夫の未来へと続いている。

大切な人と、忘れられないひとときを

目で楽しみ、食感に驚き、舌で味わい、人の体温に触れる。Chez SAWAで過ごしたひとときは、単なる食事の枠を越え、忘れられない体験となった。

料理は奥深く洗練され、空間も美しい。それでいて、格式張った雰囲気はない。島の素朴さとフレンチの確かな技術が調和した、唯一無二のオーベルジュだと感じた。

あなたも大切な人と一緒に、ここでしか過ごせない豊かな時間を味わってほしい。
何年たっても「あの時、本当においしかったね」「また行きたいね」と語り合い、思い出しては微笑むような経験がきっとできるはずだ。

Chez SAWA基本情報

Restaurant

Lunch|12:00〜14:30
Dinner|18:00〜21:30
料金|ランチ 4,000円・6,000円(税込)/ディナー 5,000円・7,000円・11,000円(税込)
※料金は季節によって変動いたしますので、詳しくは公式HP新しいタブで開きますをご覧ください。
ご予約・お問い合わせ|050-8885-0767

※レストランは完全予約制で、予約は電話のみ受け付けております。
※料理内容は、その日の仕入れ状況によって変わります。アレルギーや苦手な食材がある場合は、予約時にご相談ください。

宿泊について

宿泊プランや客室、アクセスなどの詳細は、Chez SAWA公式HP新しいタブで開きますもしくはこちら新しいタブで開きますから。